福岡高等裁判所 昭和51年(行コ)10号 判決 1979年3月22日
大分県別府市北浜三丁目五番一七号
控訴人(付帯被控訴人)
児玉誠
右訴訟代理人弁護士
山本草平
大分県佐伯市松ヶ鼻三、二七六の三
被控訴人(付帯控訴人)佐伯税務署長
前原輝幸
右指定代理人
中野昌治
同
小柳淳一郎
同
坂元克郎
同
太田幸助
同
平野多久哉
主文
一 被控訴人(付帯控訴人)の付帯控訴に基づいて、原判決を次のとおり変更する。
二 被控訴人(付帯控訴人)が控訴人(付帯被控訴人)に対して昭和四〇年六月一六日付けでなした控訴人(付帯被控訴人)の昭和三五年度分総所得金額を金五四九万四、五一二円とする更正決定のうち金五三五万三、六二〇円を超える部分を取り消す。
三 被控訴人(付帯被控訴人)のその余の請求を棄却する。
四 控訴人(付帯被控訴人)の控訴を棄却する。
五 訴訟費用はこれを五分し、その四を控訴人(付帯被控訴人)の、その余を被控訴人(付帯控訴人)の各負担とする。
事実
(申立て)
一 控訴
控訴人(付帯被控訴人、以下、「控訴人」という。)
原判決を次のとおり変更する。
被控訴人(付帯控訴人、以下、「被控訴人」という。)が控訴人に対して昭和四〇年六月一六日付けでなした控訴人の昭和三五年度分総所得金額を金五四九万四、五一二円とする更正決定のうち金一三八万八、二三二円を超える部分はこれを取り消す。
訴訟費用は第一、二審とも被控訴人の負担とする。
との判決
被控訴人
本件控訴を棄却する。
控訴費用は控訴人の負担とする。
との判決
二 付帯控訴
被控訴人
原判決中被控訴人敗訴部分を取り消す。
控訴人の請求を棄却する。
訴訟費用は第一、二審とも控訴人の負担とする。
との判決
控訴人
本件付帯控訴を棄却する。
との判決
(主張)
当事者双方の主張は、次のとおり付加するほか、原判決事実摘示と同一であるから、これを引用する(ただし、原判決六枚目表下段の末行に「仮に金一八万円の貸付金について月八分の利息の約定があったことが認められないとしても、控訴人が他に相当の利率で広津留憲治に金銭の貸付けを行っていること等を考慮すれば、最低月二分程度の利息の約定があったものと認めるべきである。」を加える。)
被控訴人の当審における主張(代物弁済として取得した不動産の売買による収入)
控訴人は、綾部一夫に対し、宮崎県東臼杵郡東郷村大字坪谷字桑木内一九三四の一ほか一三筆の山林を譲渡担保にとって、昭和三五年三月から四月二二日までの間に数回にわたり合計金三五〇万円を月四分の利息の定めで貸付け、その後右元本及び利息の支払を得られなかったため、同年一〇月三〇日をもって同訴外人との間で右担保物件を多くても右元本とこれに対する同年五月以後一〇月までの利息金八四万円との合計金四三四万円を超えない金額で評価して右貸金債権と精算し、確定的に右担保物件の所有権を取得した。そして、控訴人は、右不動産を取得するに際し、登録税及び登記手数料として合計金四万円の費用を支出した。
更に控訴人は、こうして取得した右不動産を昭和三五年一一月一五日綾部一夫に代金五〇〇万円で売却し、同月中に代金全額を受領したが、その後登記手続に関して紛争が生じたため、同訴外人との間で昭和三六年一月一日右売買代金として金一五〇万円を追加する旨の契約を締結した。
したがって、右金五〇〇万円を控訴人の昭和三五年中の金融業に係る事業所得の収入金額に計上するとともに、取得価額金四三四万円に登録税等の金四万円を加算した金四三八万円を取得価額等として必要経費に計上するのが相当である。
(証拠関係)
証拠関係については、控訴人において、新たに甲第一〇号証を提出し、当審における控訴人本人尋問の結果を援用し、後記乙号各証の成立を認めると答え、被控訴人において、新たに乙第三四、第三五号証の各一、二を提出し、当審証人小畑英一、山添隆の各証言を援用し、右甲号証の不知と答えたほか、原判決事実摘示と同一であるから、これを引用する。
理由
一 当裁判所は、控訴人の本訴請求は、被控訴人が控訴人に対して昭和四〇年六月一六日付けでなした控訴人の昭和三五年度分総所得金額を金五四九万四、五一二円とする更正決定のうち金五三五万三、六二〇円を超える部分の取消しを求める限度で正当であるからこれを認容し、その余の部分は失当であるからこれを棄却すべきものと判断する。
二 その理由は、次のとおり付加、訂正するほか、原判決理由説示一、二と同一であるから、これを引用する。
1 原判決一七枚目表六行目の「原告本人尋問」の前に「原審及び当審における」を加える。
2 原判決一八枚目表七行目冒頭から一一行目末尾までを次のとおり改める。
「更に、被控訴人は、控訴人が昭和三五年七月一二日広津留に対し金一八万円を月八分の利息の定めで貸し付けた旨主張するので判断するに、前記乙第七、第九号証によれば、利息の約定の点を除き右出張どおりの貸付けの事実を認めることができる。
ところで、月八分の約定があったことについてはこれを認めるに足りる証拠はないけれども、控訴人と広津留との間に締決された以上認定の他の消費貸借契約の利息の約定に照らせば、利息制限法所定の年一割八分の利率を下らない利息の定めがなされたものと認めるのが相当である。
してみると、控訴人は、右貸付日である昭和三五年七月一二日から同三五年一二月三一日までの間に金一万五、三一四円()を下らない利息を得たものと認められる。」
3 原判決二一枚目裏二行目の「明らか」から同二二枚目表六行目末尾までを「明らかとなったこと、そこで、控訴人は、同訴外人に対し、金八〇万円とこれに対する昭和三一年五月一日以降年三割六分の割合による損害金の支払を求める訴えを提起したところ、昭和四三年一月二九日、福岡高等裁判所宮崎支部において、「同訴外人は控訴人に対し金八〇万円及びこれに対する昭和三六年二月七日から完済に至るまで年五分の割合による金員を支払え。」という判決が言い渡され、右判決がその後確定したことを認めることができる。
してみると、爾余の点について判断するまでもなく、被控訴人の主張する損害金を昭和三五年度中に収入すべき金額として事業所得に計上することはできないものといわなければならない。」と改める。
4 原判決二三枚目表三行目冒頭から七行目末尾までを次のとおり改める。
「前記乙第一七号証、成立に争いのない乙第三四、第三五号証の各一、二、原審及び当審証人小畑英一の証言によれば、控訴人が昭和三五年中に月平均金二五万円の短期小口貸金債権を有し、これに対する利息として金一八万円の収入を得ていたことを認めることができる。」
5 原判決二三枚目表九行目から次行にかけての「金六一〇万八、二八三円」を「金六三〇万三、五九七円」に、同二四枚目表九行目から次行にかける「金七六万一、七〇三円」を「金七八万六、〇五九円」に改める。
6 被控訴人の当審における主張に対する判断
成立に争いのない乙第一二、第一三、第三二号証、原本の存在及び成立に争いのない乙第二三ないし第二八号証、原審証人倉原守彦、綾部一夫の各証言並びに原審における控訴人本人尋問の結果によれば、被控訴人主張どおりの事実を認めることができる。
してみると、右金五〇〇万円を控訴人の昭和三五年中の金融業に係る事業所得の収入金額に計上するとともに、取得価額金四三四万円に登録税等の金四万円を加算した金額金四三八万円を取得価額等として必要経費に計上すべきである。
三 以上によれば、控訴人の昭和三五年度の金融業に関する収入は、金一、一三〇万三、五九七円(630万3,597円+500万円)であり、支出(必要経費)は、金六二五万三、九〇九円(78万6,059円+438万円+108万7,850円)であるから、同年度の事業所得は前者から後者を控除した五〇四万九、六八八円となり、控訴人の昭和三五年度の総所得金額は、右事業所得に前記配当所得金九万七、五〇〇円、不動産所得金七万四、五二〇円、農業所得金一三万一、九一二円を加えた合計金五三五万三、六二〇円であることが認められる。
したがって、被控訴人が昭和四〇年六月一六日付けでなした控訴人の昭和三五年度の総所得金額を金五四九万四、五一二円であるとした更正処分は、控訴人の所得を金一四万〇、八九二円超過していることが計算上明らかであり、その意味において控訴人の所得を過大に認定した違法があるので、控訴人の昭和三五年度の総所得金額金五三五万三、六二〇円を超える部分はこれを取り消すべきである。
よって、被控訴人の本件付帯控訴は一部理由があるから、右と異なる原判決をその限度で変更し、控訴人の本件控訴は理由がないからこれを棄却し、訴訟費用の負担について民訴法第九六条、第八九条、第九二条を適用して、主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 高石博良 裁判官 鍋山健 裁判官 原田和徳)